会社の経営と情報発信を結びつけるパブリックリレーションズ

Key Note

情報発信には、説明責任が伴います。多くの人に発表すればするほど、それは重くなります。そして多くの視点からたくさんの質問が寄せられます。発信を担う担当者は、そのすべてに真摯に誠実に答え、納得してもらい、「商品を買ってもらう」「イベントに足を運んでもらう」などのアクションを獲得するのです。

これがパブリックリレーションズの定義に込められている双方向コミュニケーションの原義です。

あらゆる質問に答えきれるようにするには、商品の開発エピソードを知ってるだけでは事足りません。その商品をプロデュースした先にどんな社会を実現したいのか、というような企業ビジョンや、売り上げ目標など経営指標にからむ要素なども理解していないといけなくなるのです。

となると。。。パブリックリレーションズは庶務や営業というような1職掌の目線ではなく、経営者の目線で行う方がやりやすい、ということになります。

全社のコミュニケーション戦略をつくってみる

企業のみならず、個人事業主も、事業を行うときには経営計画を作り、戦略を練るはずです。全体的なものは経営戦略ですが、規模が大きくなれば以下のようなものも戦略としてリストされます。

・メインとなる商品やサービスの営業戦略
・経費の方針や資金の使途を考える財務戦略
・商品・サービスの開発戦略(プロダクト戦略)
・情報システムの構築方針を示す情報戦略(IT戦略)
・今後どんな人をどの段階で募集するか、人事戦略

ここで定められた考え方は、日々の業務ごとに確認され、共有されていくものですが、それらを社内外にいかに伝え、理解を得るか、進捗をよりスムーズにするかというコミュニケーションの方針を定めるのが、パブリックリレーションズの仕事である、

・コミュニケーション戦略

の構築です。

たとえば営業に必要なプレゼン資料やパンフレット、アイコンとなる企業ロゴの維持や規定は営業戦略に必須のツール化メソッドになります。

資金をいつどのように使うかを投資家に示し、理解を得る説得材料は、決算書をまとめるだけではなく、企業理念や市場状況の説明があると、よりスムーズに話が進みます。

開発で得た独自の技術やノウハウは、ときに公表し、適切なターゲットに説明をすれば、新しい提携やイノベーションを生む材料を作り出すはずです。

ネットや店舗、人を通じてビジネスチャンスを得るには、即時に情報共有をする情報インフラを作るだけでなく、どのようなルールでどんなことを優先させるか、という方針が必要になります。

そして、ベンチャーであればあるほど人材の募集は業績に先駆けて手を打たなければ間に合いません。どのタイミングでどんな人にアピールするかを考え、先手を打ってターゲットが集まるチャンネルにアプローチをとる方策を検討し実施する必要性は急務のはずです。

このように簡単にリストしてみるだけでも、「情報をどうやってまわそうか」「相手にどんな話をしたほうがいいか」というような懸案は、主力商品の魅力をアピールする以外にも山ほどあります。この情報発信を、商品を販売する現場目線で場当たり的に作っていくと、何かが抜け、何かが過剰になってしまい、非効率になります。場合によっては外部の人たちとトラブルになります。

これを経営理念の達成や経営戦略の達成を前提に、理念を社長から社員に流れていくように、必要な情報が外部に向かえば向かうほど肉付けされ、横に幅広く広がっていくようにデザインすることができれば、1つの情報が複数のチャンネルで多重放送的に発信され、共有されます。新聞発表と同時にラジオに出し、SNSで告知し、社内イントラの社内報で伝わり、営業会議で議題に上がる、というようなことが常に引き起こされる。この状態を作り出すことが、パブリックリレーションズの真の仕事です。

交通整理をするだけかもしれないし、道路設計を1から作り直すことも

どんな情報をどんなタイミングで流すか、というのがパブリックリレーションズを形作る要素です。まずは、その業種の仕事の流れを知り、そこに一般常識として外部から企業に求められる情報を発信するしくみをあてはめていくことがスタートになるでしょう。

個々の戦略が担当者によってつくられているのならば、それぞれのスペシャルティーをどのタイミングでどこに出してもらうかを決めるだけで終わりますが、そもそも情報が交錯しているような社内状態の場合、いったんすべてを止めてルールをまったく新しく作ることから始めなければならないところもあります。

すでに始まってしまっている場合は、どうするか?

たとえば特定の売れ筋商品を改めてコミュニケーション戦略にのっとって整備したい場合、以下のような質問をしてみるといいと思います。

「この商品は企業理念のどの部分を達成させるものだったか?」

そして、
「それは十分にお客さんに伝わっているのか?」

分からない場合、わかるよう調査をするのです。どう調査するのか、から考えなければならないと思います。

ことば改めをするのがパブリックリレーションズの仕事

ネガティブなことをポジティブな表現に変換するのがパブリックリレーションズの仕事です。

たとえば、有力な社員が一度にたくさんやめてしまったとき、「新しいチャレンジを自由に試せるチャンスが来た!」と社員には説き、「業績急拡大につき大量募集に踏み切ります!」と外部に伝える、とか、

調査で出てくるいいこと、悪いことすべてをいかに新しい視点で活用するか、という目線の維持は重要になります。

ブラックボックスをとりのぞく

戦略としてリストされるものは、基本的にすべてふまえて一度は検討しなければいけないものです。経営者はとくに、経営上のデリケートなものについては、戦略構築担当の人にもすべてを明かそうとしてくれないケースはたくさんあります。わたしはそれをブラックボックス、と呼んでいます。このブラックボックスは戦略構築ではなるべくないほうがいいものです(今が発表のタイミングではない、関係者に影響を与えるなど、場合によってはブラックボックスにしておいたほうがいいケースも経営上は多々あるものです)。しかし情報発信は、隠し事の前提の上に作ると、社会から大きなしっぺ返しを食らうのは、幾多の事例が明らかにしてくれています。

ブラックボックス化は「経営の失敗とみなされ、責任を取らされる」と保身に走りがちな人たちが作る心理的障壁でもあります。

財務状況を把握するな、というようなケースが典型的ですが、財務担当役員といかにプラスに活用するか、ということを常に細かく何度も打ち合わせ、誤解を取り除き、将来起こりうる懸念を検討し、ひとつひとつに対応策を作っていくことを双方向コミュニケーションができるかどうかが、パブリックリレーションズ担当者の仕事になります。お互いの立場を理解しあい、双方向で解決策を見出すことこそ、パブリックリレーションズの定義です。

ネガティブなことはネガティブである、と認定すること

コミュニケーション戦略を作る上で重要なのは、ネガティブなことが漏れてもすぐに切り返す対策を作るのだ、ということを、当事者にわかってもらい、安心させることでもあります。一方通行のメッセージ形式を持つ情報発信手段(とくに広告・宣伝)は、このネガティブなことは完全に隠して自分たちの都合のいいことだけを強調しますが、すべての方位とのコミュニケーションを必要とする企業のリレーションでは、隠しきれることはほぼありません。

そういうときは、ネガティブはネガティブで認め、そのうえでこれからそれをどう改善していくのか、という方針をひとつ持てばいいのです。ということは、それぞれの戦略での齟齬やマイナス面をしっかりと検証し、ひとつひとつに回答を用意しなければならないことになります。

ネガティブを認めるのは、パブリックリレーションズ担当者のみの作業ではなく、全社的なとりくみになっていかなければならないのです。でないと、その場限りの対応、ということになり、露呈したときは企業の存続にかかわるバッシングを受けてしまいます。

情報発信担当者に丸投げはマネジメントとして最低の行為

とくに、ネガティブなことに対してどのように回答をするべきなのか。その方針を決めるのは担当部署であり、経営者です。その方針にのっとってパブリックリレーションズ担当者は外部とのコミュニケーションをしていくのですが、その方針づくりをパブリックリレーションズ担当者に丸投げするケースが目立ちます。

戦略の構築は詰めれば詰めるほどすべての社員が関係することになり(経営全般のことですから当然です)、それは全社作業であるのです。丸投げはその作業を怠ることになり、マネジメント責任者にとって責任放棄の最低な行為です。パブリックリレーションズ担当者は経営感覚を磨きながら、あらゆるケースに対応できるように、関連部署や役員と常にコンタクトを取り、どうすればいいかアドバイスを求めていくものです。社内はそれに真摯に答えることで、万全のコミュニケーション体制を作っていきます。これができなければいい外部に良好なコミュニケーションを作り出すことは難しくなります。

まとめ

情報発信をするとき、その対象の商品やサービスのみフォーカスして発信を考えてしまいますが、それらはどういった経緯で作られたのか、何に有効なのか、という説明をしっかりとするには、ルーツを探る必要が出てきます。そしてそれらは経営戦略にまでさかのぼらないといけなくなるのです。

パブリックリレーションズの定義における「戦略的コミュニケーションプロセス」とは、この経営戦略からはじまった企業活動や商品やサービスのストーリーを一貫して理解し、伝えることを意味し、その視点は担当者目線ではなく、経営者目線でとらえたほうが、より全体的な情報を得ることができます。

パブリックリレーションズでは、経営戦略をもとに全社のコミュニケーション戦略をつくり、ケースによって発信の方針を定め、運用する流れを作ることが重要な仕事となります。

情報発信を経営戦略から見直すとすると、さまざまな交通整理をすることになり、場合によってはルール化も必要でしょう。その中で一番の課題は、経営者が経営のデリケートな情報を余すことなく伝えてくれないことです。デリケートなことだから当然と言えば当然ですが、この状態で発信することは大事なことを隠したうえでの発信とみなされ、バッシングの対象や不祥事の原因になりうる危険性もあります。

経営の上流から発信を試みるということは、何をどこまで発信するか、という議論の繰り返しになります。それがめんどくさくなり、現場目線で目先のことだけを処理するようになることとも戦わなければなりません。情報発信は一部の人の担当ではなく、すべての人がかかわる重大事業です。すべての関係者が等しく同じ発信ができる理想に向けて(すべての人が経営者目線でパブリックとコミュニケーションを取れるように)パブリックリレーションズはその行き先を示すリーダーシップを取ります。

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