企業が有名になればなるほど、社会性が求められるのは、数多の企業のサクセスストーリーを見ていればあきらかです。特に短期間で有名になるのは社会ニーズと時代ニーズにフィットしているからであり、多少の問題があったとしても乗り越えてしまいます。ブランドイメージは社会性と同義のように成長していきます。
ただ、有名になるということは、不自由さを手に入れることでもある、というのに気づく人は少ないかもしれません。作られたイメージの中で行動が求められ、その所属を公言してしまうと公私にわたりそのブランドを背負うことになります。それが社会性ということになります。
ところが、情報発信を担当していると、CEOのほとんどは「有名になること」には関心があれど、「社会性を満たすこと」については無頓着な人があまりにも多いと感じます。有名になればなるほど不自由になっていく意味をわかっていません。
出身に「東●大学」と書いた人のFacebookを見てみればよい
Facebookでは、高学歴の人ほど出身大学を正直に明記します。自己顕示欲のひとつですが、こういう人たちはまた、その大学名を明記した時点でその大学のブランドを背負って行動することの自覚も足りていません。自分の自己顕示欲のままに、毎日ワイングラス片手にタワマンからの夜景の写真などをアップしていれば批判の的になりやすいもので、SNS上では結構嫌われ者が多いですw
「ああ、こういうやつらが東●大学出身者なのか」
というイメージがつくのです。
会社が有名になれば、そこに所属していることを公言した時点で「公人」になってしまいます。芸能界ではそういった現象を昔から「有名税」と呼んだりしていました。公人になっておきながら個人の見解と会社は関係ありません、とSNSでプロフィールに書くへんな人がいますが、知っているほうに目が行くのが人の心理なので(=公人と扱われる)、どんなにお断りをしてもそういう人たちは「●●の△△さん」という目で見られてしまうもの。自分の考えだけで関係性を断ち切りたければ、はなっから名乗らないか、会社名を伏せて出直すしかないのです。
が、この心理がわかっていない。
会社が有名になるということは、衆人環視の環境が待っているわけであり、(どこの部署だか、どんな程度の重要さがあるところかはわからないけれど)マイクロソフトやメルカリやLINEやトヨタの社員は所属を公表した時点でプライバシーがほとんどなくなってしまうのです。
その自覚がないままにふるまってしまうと、有名であればあるほど火種は広がっていきます。困ったことに、(大して重要でないかもしれないつまらない)1社員のやらかしが、ブランド本体のイメージを損なうことに直結してしまったりするのが、有名税の厳しいところです。
有名になるリスク
有名になるということは、自分たちの知らない不特定多数の人たちに発見されることであり、どんな視点で見られているかわからないところが問題になります。自分では予想できない反応が返ってくるものなのです。そういう人たちに備えるには、言動に注意していかなければなりません。これは人気を維持するのと同義です。
企業も成長していき、モノが売れてたくさんの人たちから利用されるようになってくると、言動に注意し、全方位的にリレーションを作らないと、その人気を維持できなくなります。つまりは、有名になるには事業での成果に並行してそれなりに準備が必要、ということです。
会社であると、その準備とはだいたいが待遇についてのことです。
ベンチャー企業は興隆期は、社員全員が毎日徹夜並みのがんばりをするものですが、CEOはそれをあたりまえ、と思ってしまい、いつまでたっても徹夜並みの労力を社員に求めてしまいます。興隆期には必要なことではあるものの、安定してくるといろいろな価値観を持った人たちが加入してくるため、その考え方を早く改めて世の中レベルに修正することが求められます。
さらに、倫理面で社会性を証明することが求められます。会社としての取り組みが本当に社会をよくする活動に繋がっているのかを、しっかり説明し、実施しなければならない。
会社の成長に応じて、以下のようなテーマに対して準備していかなければなりません。
働き方改革
安倍政権で発足した各種労働法規の改正の総称です。
残業時間と同一賃金同一労働(正社員と同レベルの仕事をするアルバイトなどパートタイム職の人の処遇の改善)、高プロ制度など賃金に関する改正と、リモートワーク、副業許可の法制化という労働スタイルの多様化の奨励という2つの大きな流れがあります。トピックにしやすいものですが、継続性と、何よりも導入された組織の人たちの満足度が重要になります。
これは各種採用の決め手になることはまちがいなく、「気持ちよく働ける環境」をいかにニーズにフィットして提供できるか、導入により生産性が具体的に向上したか、というようなことに直結する重要なものになるでしょう。
同一賃金同一労働
働き方改革の目玉企画ですが、賃金格差面で少子高齢化や生産性改善など、さまざまな分野に共振するテーマです。アルバイトに支えられている職場の場合、この課題は重要で、いかに働き方を多様化させつつ正社員なみの責任を持ってもらうか、対価をしっかりと支払うか、という構造改革が求められています。
しかし、ほとんどの職場にそんな柔軟さはないですし、当事者で上位に位置する正社員たちのほとんどに同一賃金同一労働の自覚がないのは、現場に入っていればわかるので、CEOのリーダーシップ次第、ということになりそうです。
まず、給与差をどう埋めるか、というのがひと山あり、その後正社員に課せられている不条理なこと(転勤の強要、残業の強要)をやらされるかでひと山ありそうです。
ハラスメント
働き方改革に当然盛り込まれているものですが、とくにパワーハラスメントについて。法制化されるため、これに対応が遅れている会社は注意が必要です。上司であることをいいことにどなりつける、命令口調で接するというようなことが日常化している体質の会社は、社歴が長いところだけではなく、ベンチャー企業にも多数存在します。特定の会社出身者が立てた会社にこの傾向が顕著だったりと、社風そのものがハラスメントとして認定されてしまう危険性があるのです。困ったことに、うまくいってると感じている上司ほど(年齢に関係なく)自覚がありません。
環境会計
取引先に子供を強制労働させている会社とかないよね?というのが実は一番ブランディングでは警戒すべき内容です。アパレルを筆頭に、海外に製造を委託しているものがあったらとくに注意が必要ですが、国内でも安く買い叩く下請けいじめなどがあったらこれに適用されてボコボコにされる懸念も持っていた方がいいでしょう。
少子高齢化
同一賃金同一労働にからむネタですが、低い賃金水準の維持を合理的に説明できない場合、「低い賃金では結婚もできなければ子供もできない」という実際の社会問題に紐づけられた批判にさらされる危険性が高まります。
「従業員の人生を犠牲にしてでも利益を確保したい企業」というトピック構図はまだ顕在化していませんが、ロジックとしては成立しています。
どんなにがんばっても年収200万円くらいしか手にできない非正規労働者に、十分な環境で子供が育てられるわけはなく、そういったことで未婚率が上昇しており、これらは年収が関係していることも数々の統計結果がでています。
直近のmetoo運動を見る限り、「人の生き方」を重視する社会は少子高齢化が顕在化すればするほど「生きる権利」「幸福の追求権」というテーマでクローズアップされることは確実で、そうなると身近な労働と人生を比較するケースは今以上に議論される環境になっていくと予想します。
x理論と従業員のSNSルール
SNS規制は簡単ですが、「従業員は給与ドロボー」という前提でルール化されている場合、規制してても暴徒化する可能性はゼロではないのは、バカッター騒動を見ていると明らかです。だからといってy理論でこれが防げるかというとそうでもなく、SNSルールは組織内で相当量の時間と労力をかけて納得してもらい、自発的行動に委ねるしかない難しいテーマです。
情報漏洩
名簿の持ち出しは過去にたくさん事件化しましたが、ハッキングにより個人情報が盗まれるケースはなども想定されます。これは単純に組織内での情報運用ルールの不備であり、かかわる人の意識が低いことから起こっていること、とも言えます。
一方、仕事を家に持ち帰る、というようなことでパソコンを電車に忘れてしまった、重要なデータが入ったチップをどこかに落としてしまった、などは、働き方に対する企業の姿勢が問われるオマケつきです。
まとめ:これらは別に何もしなくてもいい
これらは、別に何もしなくていい、とも言えます。
だって情報発信の担当者、経営に携わっているわけではないですから。
と、この文に「そうだよね」と思ってしまった人はアウトです。
何もわかっていません。
これらは今後有名になればなるほど外部(とくにメディア)から掘り下げられるテーマです。
つまりは記者や投資家から手を替え品を替え質問されます。パブリックリレーションズ担当者を通じてあら探しをされるわけです。質問を受ける側に立った時、ここで苦しい対応をしてしまったら負けですし、なによりもあなたがきっかけで、組織の齟齬が外部にさらされるわけです。さらしたいならホイホイ話していいですよ。組織の変革を外圧によって促すブーメラン効果作戦というのは、PRメソッドとしてはアリなので。
少子高齢化は貧困とも関連するでしょうし、その元凶を低賃金、長時間拘束というようなくくり方による問題化は十分に予測できますし、そうならないとおかしいのです。同一賃金同一労働はそのトップにくる危険なトピックです。
その中で成功している会社がやり玉に挙げられるのは目に見えて明らかです。
働き方改革は、仕事環境の改善を無視して残業時間を強制カットするようなゴキゲンな会社が続出していますが、現場の疲弊度を知れば知るほど爆弾要素満載です。働き方改革を、単に数値調整で考え、人の生き方、暮らし方、幸福の再定義というようなことに真剣に取り組んでいない場合は相当の注意を要するテーマです。
今後起こりうるPRリスクにアンテナを張り、対策のために動くには、まずあなたがまっとうな人間であるかどうかが試されている、とも言えます。
まっとうでなければ感知することは不可能だからです。
会社の同調圧力に屈して、会社の定める規定をあたりまえだ、と思ってしまったら、あなたは何も比較・検証することができなくなります。とくに働き方改革は顕著でしょう。自分と同じような内容の仕事をしているアルバイトや派遣社員の給料を「おかしい」と思えないような人は、世の中にごろごろいるわけです。
自分たちが正しい、あたりまえ、という気分をいかにひとつでもなくしていくか、人間としての価値が問われるテーマであり、試されている、と言えます。あなたはこの記事を読んでしまったので、もうそのお試しが始まっているとみていいでしょう。誰にも言わなくていいですし、特に外部に問題はないかもしれないですが、知った責任を取らなければどのようなことが起こっていくのか、見てみるのも一興かもしれません。
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