日本では作業ルーチンの法則としてPDCAアプローチがよく採用されています。元々は戦後アメリカから統計的品質管理手法として導入された考え方で、製造過程で出る品質のバラツキを特殊要因と一般要因に分け、一般要因によるばらつきをなるべくおさえるにはどうしたらいいだろう、という思想で考案された品質改善のワークフローです。このフローは日本で洗練化され、QC、TQCとしてアメリカに逆輸出されるのですが、国内で多用されるようになっているこのPDCAプロセスは、なにかものごとを行うときに計画を立てて実行し、改善する、というフローを定着化させた、いちばん身近なワークフローであることは確かです。
このPDCAを戦略コミュニケーションにも導入させよう、と日本のパブリックリレーションズ協会が試みていますが。。。元々パブリックリレーションズにも構築ワークフローがあり、そちらを使うべきだと私は思っています。協会もこのフローの存在を知っていながらPDCAをあてはめようとする意図はなんなのか。それらもふまえてPDCAを戦略コミュニケーションに組み入れるときの注意点を、ワークフローの内容をまとめながら考えてみます。
計画することを義務付けたワークフロー革命
PDCAのプロセスはシンプルです。
Plan(計画する
↓
Do (実行する
↓
Check (確認する
↓
Action(もう一度実行する
いろんな人たちが、Checkは「評価する」、Actionは「改善する」としていて、それをあてはめると、
計画する
↓
実行する
↓
評価する
↓
改善する
となります。
英語の意味としてはかなりかけ離れてしまいますが、品質管理の歴史から、4つのキーワードに落ち着いてる点で必須要因であることは確かです。
パブリックリレーションズにはもともとPDCAのようなフローがある
アメリカンPRのテキストブックである、カトリップのEffective Public Relationsにはワークフローが存在しており、テキストの中盤で1部門まるまるその解説に割いています。
ステップ1:
パブリックリレーションズを定義する Defining PR
…PRの問題点を抽出します。
↓
ステップ2:
プランニング&プログラミング
…課題に対して改善プランを作り、その実行のためのプログラムを考える
(オブジェクティブやターゲット設定なども行います)
↓
ステップ3:
行動をおこし、コミュニケーションを取る
…双方向を促すプログラム構成でアクションを取っていきます
↓
ステップ4:プログラムを評価する
…結果検証を調査段階から実行成果まで調べ、改善点を導き出します
もっとシンプルにすると、
課題を抽出
↓
計画をプログラム
↓
実行しコミュニケーション
↓
評価する
ということになります。
専門家は、これをRACEアプローチと呼ぶこともあります。
Research
↓
Action
↓
Communication
↓
Evaluation
カトリップ解説と一致します。
PR概論が語る、よくわからない比較
日本のパブリックリレーションズ協会が認定プランナー向けテキストとして採用しているPR概論のp.88には、このカトリップ解説をPDCAに例えて、「ADPCサイクルを基本として」と上記のプロセスを強引にPDCA化しよう、あるいはPDCAの概念で説明しようとしています。
それによると。。。
A 状況分析?
↓
D 戦略構築?
↓
P 実施?
↓
C 評価?
と、めちゃくちゃです。しいて言えば、CPDAだと思うのですが。。。
RACEアプローチを現地で学び、実際にプロジェクトでも使っている私にとって、何度読んでもこれを理解することができませんでした。それでも認定PRプランナーの教科書なので、どうしたらいいのか、というのを考えてみます。
PDCAとRACEアプローチの違い。本来は別々に使うべき
両ワークフローとも非常によく似ていますが、細かいところで方針の相違がみられます。
1.結局、日本のPR協会は枝葉末節目線
戦略PRを標榜していますが、PDCAは作業工程におけるワークフローである点で、作業にどう対処しようか、という現場目線、枝葉末節目線であることがまるわかり、ということになります。戦略構築には戦略構築のワークフローがあり、経営戦略で解説すべきはもっと別のところにあります(このPR概論をみるかぎり経営分析要素の説明は十分とはいえないのです)。これに気づかないと、経営者目線はいつのまにか作業員目線にすりかわってしまいます。
2.戦略達成を前提に計画をつくること
PDCAでは計画のおおもとである戦略について論じられていません。TQCの工程管理であるので、作業ルーチンに対する管理であることを認識したうえで、戦略遂行とのマッチングを自主的に確認することが必要となります。
*実は、PR概論のp.88でもその点を指摘しています(だったらはじめからRACEアプローチはRACEアプローチで紹介すればいいのに)。
3.リサーチの方針
戦略構築の最重要テーマは「現状把握・状況分析」です。戦略のそもそもの思想は「ビジョン達成のために、自分たちができることは何かを探し、定める」ことです。できないことをリストし、「これらはやらないことにしよう」ということが前提です。戦略は基本的に「自分たちができることをまとめた」ものなので、それを導き出すプロセスでPDCAを導入するとしたら、リサーチ方針が決まった後に、それが確実に実行されるか、を確認するためのプロセスとして導入するなら力を発揮されます。
まとめ:試験のためにPDCAにつきあう程度に
PR概論にPR戦略をおしすすめるワークフローとしてPDCAが推奨されていますが、ページを重ねるにしたがってその解説が怪しくなっていくおかしさを見ることができます。どのような意図が働いてこの「ルーチン処理フロー」がクリエイティブを必要とする戦略構築に適用されたのか謎ですが、以下の注意点を持ってこのよくわからない解説をとらえ、スルーしておくことをおすすめします。
1.PDCAは作業品質管理のワークフローなので、ルーチンワークに対する改善には抜群の威力を発揮する。【PR概要も後半その利点を(なぜか)説明している】。雑用として広報ポジションを設置している会社の広報担当には願ったりかなったりの手法である。
2.戦略を構築するのは、経営者目線か従業員目線かで作り方が違ってくるが、基本的には経営者目線を維持して作らなければ意味がない。ところがPRプランナー資格は従業員ポジションの人たちが受験するのが圧倒的多数。彼ら・彼女らがもっともなじみやすいワークフローを導入し、戦略構築も従業員でもできるという解説を優先させてしまったのではないか。しかし、残念ながら、経営者視点でのワークフロー(0から1を生み出すマインドフロー)はPDCAはまったく向かない。
3.パブリックリレーションズの世界の教科書といわれるカトリップのテキストブックには、1パートまるまるかけてパブリックリレーションズの(というか経営戦略を打ち立てるための)ワークフローを徹底解説している。PR概論がカトリップのテキストの解説をしているにもかかわらず、このフローを紹介していないのは謎でしかない。
4.本来のワークフローは、「調査」がある。課題抽出と仮説づくりには、状況把握としての調査こそ大事だが、PDCAにはそれがない。それ以外はとても似ている。調査があるかないかの違いは、まったく新しいものを導入するオプションがあるか、ないかである。
5.PDCA解説は、よくわからないことをえんえんとならべているが、試験のためにひとまず覚えて置き、おわったらすべて忘れるといい。
というかんじでしょうか。
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