組織において情報を扱うということは、いろいろなことをコントロールする要素に簡単につながります。ゆえに、情報を扱う者という自覚を報道機関並みに持たなければ、組織内外でのポジションの維持は難しくなる、という認識が必要です。
たとえば、特定の人や団体をひいきした情報コミュニケーションをした場合、その対象外となった人や団体のやっかみや恨みを買うことになります。情報は、人によってとらえる側面が違います。利益相反になることもあり、慎重に扱うことを考えると、中立性をいかに発揮するか、がパブリックリレーションズを続けていくうえで重要なポイントになるはずです。
注意すべきポイントをリストしてみます。
利益相反
組織の情報発信は、とくに営利企業では商品やサービスを購買につなげるために行う必要があります。購買してくれる特定のパブリックがあるものの、そこに到達するまでにはさまざまなパブリックとのコミュニケーションは避けては通れません。
企業のホームページは、自分たちの対象とすべきパブリックの人たちのみが訪れるわけではありません。広告やイベントはさらに顕著です。マスに情報を流せば流すほど、そうでないパブリックの人たちとの接点が発生します。こういった人たちからの反感をなるべく抑え、「次の購買してくれる候補者」になってもらうコミュニケーションを、あらゆるメソッドを駆使してコントロールするのがパブリックリレーションズになります。
ゆえに、パブリックと良好な関係を構築するためには、企業の情報発信を内側で選別します。選別の対象は、まちがって受け取られてしまう可能性のある情報や、自分たちの都合しか考えない方針などで、パブリックリレーションズには多角的な視点と客観性、公平性などが求められます。
この選別は、巡り巡って企業不正などの芽を摘む役目も担うことになります。
パブリックリレーションズ担当者は、企業にとっても、パブリックにとっても相互がWin-Winの関係になるためのプロデューサーであると同時に、片方が都合よく利益を得ることを防ぐ防波堤の役目も果たさなければならないのです。
企業側からこの「選別」を見ると、利益相反である、ととらえることも。
しかし、それは企業側のエゴむきだしの見方であり、そういう考えを起こしている時点でその企業は大いなる問題を抱えている、とみなしていいかもしれません。
そういう見方を起こさない環境づくりを、企業がパブリックリレーションズと協働して行うようになっていくことが通常であり、そのための方策を無限に生み出していくのがパブリックリレーションズ担当者の役目になります。
情報は、人々の人生を一変させかねない
とくによく言われるのが、「活字の力」です。たった一冊の本との出会いで「私の人生大きく変わりました」みたいなことは、よく聞くのではないでしょうか。インターネットの普及により、活字を目にするケースは雑誌と本だけの頃よりも意外にも広がっていて、最近はブログの1本の記事で人生かわった、ツイッターのひとことでかわった、というようなことすらも目にすることが増えてきました。
パブリックリレーションズ担当者は、情報発信において活字を使う戦術を多く抱えています。つまり、たくさんの人の人生を一変させかねないのです。情報の重みを理解したうえで、担当者は情報を吟味し、制作しているか、発信しているか。パブリックリレーションズ担当者の自覚が、覚悟が問われます。
編集権
パブリックリレーションズ担当者は、さきほどあげたように、相手のパブリックに合わせて情報を選別し、発信することが求められる仕事です。ゆえに、社内からあげられてくる情報を吟味し、ときにはボツにする権限があります。
簡単に書けば、たとえ社長からの命令でもパブリックにとって不利益となる情報発信は拒否する権限です。これができなければパブリックリレーションズはプロパガンダ製造機になり下がります。
社長に言われたことを何も考えずに発信し続ける広報担当は、広報の敵です。情報発信する者のプライドとは、その内容の成否を自分だけの目で判別することであり、情報を加工する技術を誇ることでは決してありません。情報は、人の一生を左右しかねません。ゆえに、情報発信を担当した以上、自分の視点で発信すべきかを常に判断すべきで、その主観は「企業に所属している」という次元を超えて、社会的にアリなのか、どうなのか、という視点を持つことが求められているといえます。
私はこの権限を報道の編集権と同種・同等である、と考えています。
パブリックリレーションズ担当者は、この編集権を企業の中で持つことが許されなければ、企業内からの発信依頼をボツにするたびに、経営陣から、現場担当者からあらゆる種類の圧力とパワハラを受けることになります。ボツにすることで怒られる、不満を口にされる、ということは、圧力です。決してあってはなりません。ボツ判断をもとに、「ではどうしたらよりよい発信になるのか」を共同で取り組む姿勢を生みだせないと、継続した良質な発信は成立しえないのです。
いつも不満を口にされる、顔に出される担当者を思い浮かべれば、わかるでしょう。そんな目にいつも社内であわされる人が担当者でいることができるでしょうか。経営者はよりよいパブリックリレーションズ構築のために、担当者の負担を減らす努力を経営面・制度面からすぐに行わなければなりません。
孤立無援の中立
パブリックリレーションズは、編集権を通じて組織内で中立性を発揮する必要があります。組織内外で情報の有益性を独自の視点で審査し、選別する機能を維持することは、企業の利益優先主義による社会からの搾取を防止し、社会からの無用な要求を避け、よりよいサービス・商品づくりの窓口になります。
しかし、その中立性は、報道機関の編集権の維持以上に厳しい環境です。
中立は孤立無援なのです。
中立を維持するためには、正確な判断をするためにあらゆる情報を知っていることが求められます。独自の情報ネットワークを持つこと、なるべく多くのコミュニケーションメソッドに精通していること、そしてその情報収集網が24時間365日稼働していることが必要です。高い情報収集力、とくに経営陣との強い関係性の構築は重要で、経営者の理解なくしてパブリックリレーションズは機能しません。
経営陣が試されるパブリックリレーションズの存立許可
経営者はパブリックリレーションズの特殊性を理解しつつ、情報統括を任せる器量が問われます。「会社は自分のものだ、俺だけが知っている情報がたくさんあるから」というマインドではパブリックリレーションズは不可能です。情報発信が進めば進むほど、紹介されればされるほど公益性が求められ、情報公開の圧力は高まります。そこに不正に通じる内容がひとつでもあれば、賞賛の嵐は批判の嵐に瞬時に代わるからです。
経営者として「情報発信担当がほしいな」と思ったステージにいるなら、それは同時に企業が社長の利己主義ではなく企業理念にのっとって活動してきたのか、これからどんなスタンスで進むのかを改めて自己に問うひとつの区切りに来ていることを指しています。利己主義があるなら、情報発信は派手に行うことはできず、パブリックリレーションズは機能しません。そうでないならパブリックリレーションズを積極活用すべきでしょう。
パブリックリレーションズは不正に一切加担しない
当然ですが、詐欺行為など違法な商売に加担する情報発信などはもってのほかです。
パブリックリレーションズが不正の手先として利用されることは断固として阻止しなければなりません。
決算情報を経営者が担当者に開示してくれるかということは、パブリックリレーションズの存立上かなり重要なことになります。キャッシュフロー上問題ないように見えても、詐欺であれば実際に商品がなかったり、流通がなかったりというようなことが日常的に発生しています。決算情報を得て売り上げが正当になされているのか、というようなことは経営者の言うことだけをうのみにするのではなく、エビデンスで把握しておく必要があります。
社長などトップの不正をパブリックリレーションズ担当者が発見した、というようなケースでは、身の危険が迫るケースなどもあるため、注意が必要です。個人レベルでは自らの被害、パブリックへの被害拡大を防ぐため、外部の法律家の助けを得ながら即刻その組織から脱出すべきだと考えます。
組織内で不正行為が発生してしまった場合、自浄的プロセスで修正できるようパブリックリレーションズは経営陣とともに真摯に取り組む必要があります。品質検査不正や顧客情報流出など、経緯を把握し、対策を練り、再発防止策を保障する一連のクライシスコミュニケーションを履行しなければなりません。
まとめ:組織内外で維持する中立性
利益を得る企業のパブリックリレーションズ担当者は、情報発信において自社には有効だがパブリックにはあまりよくない情報をカットする権限を有していなければ、パブリックとの良好な関係を築くことが難しくなります。
報道機関が持つ編集権の精神と同種・同等の、情報を独自視点で選別し、発信する権利は、他人の人生をかえてしまう可能性のある情報を扱うパブリックリレーションズ担当者が常に心に自覚しておくべき権利です。
しかし、報道機関のように編集権を盾に自らの中立性を、組織、特に企業の中で維持するのは並大抵のことではありません。利益を誘導する経営陣の命令は際限なく続き、発信却下は身内内で火種を生む可能性が高いからです。しかし、編集権の意味を経営陣が真に理解し、コミュニケーションの統括を任せる理解が備われば、そういった圧力・火種ではなく、よりよいコミュニケーションを常にともに考え、実行していこうという姿勢が組織内に生まれ、対立はなくなるはずです。
パブリックリレーションズ担当者は、組織の中で独自の目線で中立を維持する。これはアメリカのPRカンパニー創業者ハロルドバーソンが言う「企業としての良心を担う」「社会のセンサーを担う」ことを説明しています。同時にパブリックリレーションズにしかできないポジション設定であり、担当者はこの維持こそがプライドである、という自覚を持つといいと思います。
中立の維持には、あらゆる情報を集め、コミュニケーション手法に精通する日々の努力が求められます。価値ある判断は大量の情報があるからこそ客観的視点を持てるのです。日々、やるべきことを具体化し、動くことから、その活動は始まっています。