情報発信はたくさんの手段がありますが、その方策それぞれは「何のために発信するのか」という問いに対する答えを出す必要があります。そして、発信にはフィードバックをもとめる双方向と、一方的に送り付ける一方向があり、企業活動では双方向になっていくことが、ステークホルダーを中心とした外部パブリックと良好な関係を築く手段であることが研究で判明してきています。
その双方向のコミュニケーションの最上位手法は、パブリックリレーションズと規定され、それを世界で初めて体系化したのがアメリカの機関・全米PR協会(Public Relations Society of America; PRSA)です。
パブリックリレーションズの定義は時代とともに更新されていますが、最新のものは2011年と2012年にまとめられた以下の主文になります。世界のパブリックリレーションズが規範とすべきもので、これを理解していることが、パブリックリレーションズを主担当とする者の「常識」となりますね。ゆえに、私のライティングも、PRSAが明記している内容を翻訳したものを上げていきます。
“Public relations is a strategic communication process that builds mutually beneficial relationships between organizations and their publics.”
パブリックリレーションズとは、組織とそのパブリックたちの間に相互に有益な関係を構築する戦略的なコミュニケーションプロセスである。
PRSA 2012 https://www.prsa.org/all-about-pr/
PRSAは「その中心的な役割を果たすのは、パブリックリレーションズは組織の一般的な認識をかたちづくり、フレーム化するために、無数のプラットフォームにわたって重要なステークホルダーとの関係に影響を及ぼし、関与し、構築すること」とも定義を説明しています。
具体的にどのようなことがそれにあたるのか?。
マネジメントにおけるパブリックリレーションズの具体例を、PRSAはさらにリストしています。
組織の業務や計画に影響を及ぼす可能性のある世論、態度、問題を予測し、分析し、解釈する。
全体的な情勢分析や個別のレピュテーション調査など、マーケティングリサーチに関するものが中心ですが、SWOT分析や4P分析、3C分析など、マーケティングや経営分析の定石パターンなども経営戦略にリンクする以上はかかわってくるものです。
公共政策や組織の社会的または市民的責任を考慮して、政策決定、行動遂行およびコミュニケーションに関する組織のあらゆるレベルのカウンセリング管理。
ポジションペーパーの発行などもその手段ですが、日本のパブリックリレーションズの今のところのテキストであるPR概論においては、第1章の「企業の良心としての役割」などもここからきています。情報管理をする以上、組織内における世論の代表というスタンスを維持することにつながる、ということです(組織マインドに流されないようにする点ではかなりハードなリクワイアメントです)。
組織の評判を守る。
マーケティングにおけるブランド構築、企業イメージとしての向上策、エグゼクティブの発言管理やノンバーバル面でのイメージ策(服装のコーディネートなど立ち居振る舞いのプロデュース)、すでにブランドとして運用している内容の維持・管理方針(CI管理)など、ミクロ・マクロで多岐にわたります。
組織の目的の成功に必要な情報に基づくパブリックの理解を得るための行動計画とコミュニケーションのプログラムを継続的に調査、実施、評価する。これらにはマーケティング;ファイナンシャル(IR);資金調達;エンプロイー(リレーションズ);地域社会(コミュニティコミュニケーション)、または政府関係(GR);その他のプログラムが含まれます。
RACEアプローチを中心に、コミュニケーションの具体策を練り、実行することですね。
公共政策に影響を与えたり変更したりするための組織の取り組みを計画し、実施する。
主に、世論形成策になりますが、代表的な活動としてはロビイイングです。が、社内コミュニケーションにおける社内文化形成策など身近な部分での公共もフォーカスの対象となります。
目標の設定、計画、予算編成、スタッフの募集とトレーニング、施設の開発 – 要するに、上記のすべてを実行するために必要なリソースの管理。
エンプロイーリレーションズが担う部分が多いですが、コミュニケーション戦略に必要なものをどう管理するか、というオペレーション面での整備をいいます。
顧客関与を促進し、リードを生成するためのコンテンツの作成を監督する。
マーケティングミックス、メディアミックスに通じるところです。
パブリックリレーションズってなに?と聞かれると、だいたい上記のようなことをしているものですが、具体的に説明をするとなると、広告や調査の1手段を語る残念な広報担当が多くて困ってしまうものです。PRSAはそれらをみこし、内容にまで踏み込んだ解説をしています。
特筆すべきは、マーケティングをパブリックリレーションズの1ポーションである、と宣言していることですね。マーケティングとパブリックリレーションズを混同しがちですが、マーケティングは販促ベースで事業における特定の商品をクローズアップし、パブリックリレーションズルールを(とくに双方向コミュニケーションという面で)有効活用している事例にすぎません。
さらに、コミュニケーションのカテゴリーをパブリックリレーションズの分野だと明確に規定しています。
・Corporate Communications
・Crisis Communications
・Events
・Executive Communications
・Internal Communications
・Marketing Communications
・Media Relations
・Multimedia
・Reputation Management
・Social Media
・Speechwriting
・ブランドジャーナリズム/コンテンツ制作
・コーポレートコミュニケーション
・クライシスコミュニケーション
・イベント
・エグゼクティブコミュニケーション
・インターナルコミュニケーション(社内・組織内コミュニケーション)
・マーケティング・コミュニケーション
・メディアリレーションズ
・マルチメディア
・評判管理・レピュテーションマネジメント
・ソーシャルメディア
・スピーチライティング
個別で活動するものもありますが、たいていは複数の方策を組み合わせて実施するケースが多いものです。
まとめ
パブリックリレーションズは組織とそのパブリックたちの間に相互に有益な関係を構築する戦略的なコミュニケーションプロセスであると、PRSAが定めたものですが、経営戦略という方向性によってどのように構成していくか、というテーマがこの定義理解を複雑にさせてしまっています。定義を理解していない人たち(困ったことに、そういう人たちはたいていがパブリックリレーションズを担う部署に所属している)は、目先の情報発信手段(とくにマーケティングやパブリシティ)をそのよりどころとしていまい、情報発信が商品のアピールのみだったり、社長が語るばかりだったりと、偏りがちです。定義をもとに、どんな仕事がそれにあたり、チャンネルとしてどういったものが活用されるべきなのか、PRSAは懇切丁寧に解説しているのですが、残念ながらこの解説をちゃんと伝える国内のPR専門家もほぼいないのが現状です。体系化されたパブリックリレーションズを学んでない人たちが支配的な環境では大変残念なことですが、経営に情報発信を活用しようと真剣に考えるCEOの人がいるならば、定義説明ができるかどうかで業者選定、社内人選をすべきかもしれません。
それぞれの用語について、実態として機能しているものとそうでないものを分けて、ここでは仕分けしてみました。
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