設定やメッセージがわかりやすいOPEN HOUSEの企業CM

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OPEN HOUSEの企業CM。都心に戸建てを作る住宅メーカーが、長期間にわたって企業CMをテレビ中心に流しています。最初は、織田裕二さんが犬に扮したCMを2014年後半に流し、シリーズ化したものだったと記憶しています。2017年の奈々緒さんの猫バージョン登場で幕を下ろしますが、その後、TOKIO長瀬さんと女優清野さんの夢見る小学生編がスタートします。

この企業CM、ターゲットやメッセージがまれにみる「はっきりわかりやすい」コンテンツだな、と感じていて、今回は企業広告を監修する側、パブリックリレーションズ目線でこれらを勝手に分析してみたいと思います。

犬ブームから猫ブームに沿った構成だった

一般社団法人ペットフード協会が毎年まとめる、全国犬猫飼育実態調査によると、2017年に猫の推定飼育数が犬を上回った、と発表しています。2018年戌年も終わりに差し掛かった12月28日、日経新聞がその実態を再度報告。それによると、猫は964万9千匹、犬は890万3千匹で、猫優位であることは変化がないとしています。

戌年でも再逆転ならず 飼育数、猫が犬を上回る  日経新聞2018/12/28
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO39488940Y8A221C1CR0000/
一般社団法人ペットフード協会全国犬猫飼育実態調査2018年版
https://petfood.or.jp/data/chart2018/index.html

グラフ推移 by時事通信2018/12/26

OPEN HOUSEのCMは、飼い主が東京都心に戸建てを持つことで、自分(犬)も大きな家に住める、とワクワクする犬のストーリー展開でした。ワンちゃん目線で戸建て住宅を持つことを語っている内容だったのです。

わたしは当初、このCMはあまり気にしていませんでしたが、2017年の奈々緒さんを起用した猫というライバル登場で、注目するようになりました。このCMが登場してから、上記の猫の飼育数が犬を上回ったニュースが私の中ではシンクロしました。

猫が犬より多い、というニュースは、その当時ニュースでしか取り上げられておらず、猫カフェや猫を取り上げた番組はまだほとんど見かけなかったところに、コンテンツとして作りこまれた企画がテレビで何度も流れていることに、当時衝撃を持った記憶があります。

また、このCMの中では、飼い主が犬のほかに猫を飼うようなイメージを持たせる展開があり、犬が焦る、という流れがあるのです。

全国犬猫飼育実態調査の調査講評は、大筋「犬の散歩につきあうのがつらくなった飼い主が、ほったらかしでも飼える猫にシフトしつつある」のと、「飼い主の高齢化」を指摘しています。CMは時代背景を映します。OPEN HOUSEのCMはこの「飼い主のシフト」を取り入れることで、犬派、猫派両方の層の支持を意識したように見えました。

それでもターゲットがぼんやりしていた感があった

2017年の猫登場は、犬好きに加え、猫好きターゲットを追加したようにも見えます。

俳優さんの年齢層を見てみます。

織田裕二さん(犬役) 1967年生まれ 2017年当時は50歳
奈々緒さん(猫役) 1988年生まれ 2017年当時は30歳

このCMは、あらゆるところで、住宅を購買してくれる層をイメージできます。
まず、飼い犬役は50才台。飼い主の俳優さんは、名前不明ですが、見た目で40才~50才台くらいでしょうか。

OPEN HOUSEのCMは、飼い犬のストーリーなので、ターゲットとしてはペットを持つ40代あるいは50代ではないか、と推理できます。しかし、この層は意外とマイノリティなのではないか、と、満員電車と職場の家族構成を見聞きしていると思うのです。

平均1世帯1匹と考えても、800万世帯(犬の飼養頭数)、都心を対象にすると半分以下の世帯数を対象にしているわけで、ターゲティングとしてはかなり絞り込んだ勝負型だな、とも思いました。

ワンちゃんからの視点、は面白さを感じるので、戸建てに全く興味がない私にも印象は残りました(笑)。実際にはコアな層にアプローチしているものの、それ以外の層からすると、「何だろう?でも印象に残るね」これこそがOPEN HOUSEの作戦と考えていいような気がします。

夢見る小学生シリーズ

2018年、TOKIO長瀬さんと女優清野菜名さんを起用して、新シリーズが始まります。私はこのシリーズの「貯金編」(2018年4Q期ごろに集中的に放映、と記憶)が大好きになりました。ターゲットがわかりやすいのと、大人が言うことを、その子供世代の小学生が話すのです。

OPEN HOUSE CMギャラリーより
https://oh.openhouse-group.com/company/cm/

貯金編のストーリーボード

放課後。下駄箱で靴を取り出し、帰ろうとする長瀬くん。
そこに男子が駆け寄り話しかけます。「長瀬ー!遠足のおやつ決めた?」

しかし長瀬くんは、おやつ代を我慢して全額貯金するようです。
それはすべて「戸建てを建てる」という目標のため。

男子にからかわれ、はしゃぐ2人。
そこに、学級委員長の清野ちゃんが上履きをしまいながらボソリ。

「一人でがんばらなくったっていいじゃん。私、結婚したら、一緒に頑張りたいけど。」

とプロポーズにも似たセリフを残し逃げるように走り去ります。

はっと固まる長瀬くん。

戸建てを持つという夢は、もはや長瀬くん1人のものではないのです。

「夢見る小学生 貯金」篇(15秒)-オープンハウスTVCM by Youtube
https://www.youtube.com/watch?v=CCTlyO7esco
画像キャプションは、Youtubeから作成(2019)

勝手にこのCMを分析:親の言いたいことを子供の小学生に言わせている

戸建ての家を買う層とは、だいたい小学生くらいになった子供を持つ親世代で、年齢的には30代後半から40代、というのが定石でしょう。ということで、小学生を主役にしたCMができたのでは、と思います。前回のシリーズよりも、年齢層が下がっているような印象を持ちます。

通常のCMは、親目線・つまり購買の主役の目線で展開しがちです。

同じ時期の別の住宅メーカーのCMの代表例としては、ダイワハウスの「天井高」をうたいもんくに、俳優・竹野内豊さんの「夫の本音」「妻の本音シリーズ」などでしょうか。

大和ハウス工業CMギャラリーより
https://www.daiwahouse.com/ad/cm/honne.html
キャプションはYoutubeより(2019)

それに対して、OPEN HOUSEの夢見る小学生シリーズは、終始小学生目線で学校生活の中で繰り広げられるイベントにからめて、親たちの戸建てを買うにあたっての思いや特徴を表現しています。

この「貯金編」では、長瀬くんがひとりで貯金して戸建てを買う、という目標設定をしていますが、清野ちゃんが「一緒に」「私にも手伝わせて」と、「結婚」や「共働き」というようなイメージを思い起こさせるやりとりをしています。

小学校での出来事の中でこれらを表現しているのですが、これは親世代の小学校時代によくあった風景でもあったはずです。

「ああ、こういう告白とかあったよな!」
「こういうシンプルなじゃれあいしてたよな」

というようなシーンがシリーズを通じてわんさと出てきます。

戸建ての話は、小学生はしないでしょう。その1点だけが非現実的ですが、そこにCMのキモを設定しています。「違和感は印象に変わる」典型的な表現法ではないかと思います。

 

年間広告費・約19億円:「目につく」を優先か

東証一部上場企業なので、決算データから年度ごとの広告費は、販管費の部分で説明されています。ですので、だいたいのCM代が割り出せます。

2018年9月期決算短信によると、2017年10月1日~ 2018年9月30日の広告費は18億6800万円。売上高3900億円の企業なので、割合としては「かなりおさえている」支出です(0.5%)。住宅メーカーなので、販促のチラシが支店単位で年間計画・実施されているはずなので、テレビCMは10億~12億円くらい投下している、とみていいのでしょうか。

このCMは、住宅の販売促進というよりも、どんな人がお客さんでどんなところに注力しているかをなんとなく伝え、浸透させる企業広告であると思います。広告を実施するパブリックリレーションズの視点では、イメージ作りというよりも、「オープンハウス」という名前をターゲットに印象付けることを最優先したものではないか、と思います。

CMだけを見れば、
・誰もが知る俳優を抜擢(長瀬さん)
・急成長注目株を抜擢して成長性をアピール(清野さん)
・大人が演じる小学生という特異な視点でCMのインパクトを稼ぐ
というような特徴があり、「都心に戸建てを買おう」というキャッチフレーズからもわかるように、住宅メーカーのCMの中ではかなり特化したターゲッティングをしています。

さらに、経営計画などから、オープンハウス社は横浜、川崎、東東京にドミナント戦略で営業所を開設していく戦術を取っていて(今後は西東京や埼玉都心部に進出しようとしている)、特定の地域では相当数の広告を目にする環境づくりをしているように思えます。

中期経営計画を上方修正し、業績としても1割から2割増額という不動産業系では「特需」に入る時期、うまくインパクトをつけて販促に結び付けよう、というのが全体の戦略なのではないでしょうか。

 

「将来の夢はユーチューバー」という特化。しかし、活用度合いは。。

小学生の将来なりたい職業ランキングで、ユーチューバーが上位を占める、というハナシは、ここ最近聞くことです。小学生の子供を持つ家庭は、どんなメディアに触れているのか、というと、テレビとユーチューブが圧倒的なのかもしれません。

オープンハウス社のウエブページは、このCMをユーチューブにアップし、ユーチューブで直接CMの内容を公式に見ることができるようになっています。

企業広告は小学生のし好に合わせて、メディアミックスを展開していますが、実際に見るのは親世代であることは確かです。CMのシリーズを改めて見ることで、それぞれの話でどんなことをとりあげているのかを知り、企業の目指すイメージを高めることができるようになっています。

これは、最大手大和ハウス工業やほかの住宅メーカー、不動産系企業よりも徹底しています。

ところが、この活用度にフォロワーがついているのか、というと、そうでもありません。

ここがSNSのこわいところでもありますが、フォロー状況もまるわかりなのです。

 

伏線イメージが尽きない面白さも活用度はいまいち。さて、次の展開は?

ストーリーボードもしっかりしていて、視点の置き方も特殊で面白いCM。長瀬くんの服装がなんとなくのび太君風かな、清野ちゃんの髪型がちびまるこちゃん的で小学生っぽさをうまく出してるよね、というような想像がたくさんできるCMだな、と個人的に感じていて、込められているメッセージを分析すると、尽きない楽しさがあると思います。

しかし、実際に活用されているかというと、どうもいまいちであるのはSNSにおけるフォロワー数であきらかです。小学校を舞台にしているので、教室シーンはたくさんのこどもを映像化できます。武蔵小杉で運動会ロケをやって、CMにターゲット層を参加させてSNSを爆発的に動かしたり、「せっかく目立つコンテンツ」を軸に販促策を分厚くローカルレベルでもっとできるのではないか、と思うのですが、どうなんでしょうか。

今後のCM展開に期待したいです。

 

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