表現の自由危機を報じる2つの記事からプレスリリースの視点を考える

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写真企画展の出展作品に対し、会場を運営している東京都の施設が作品の一部に注文を付け、表現の自由について物議をかもす騒動に発展しています。ニュースとして概要をまとめるとこういうことなのですが、ここでなぜとりあげるのか。この、騒動に至った経緯を調べると、プレスリリースが採用される要素が面白いほどわかりやすかったから、というものがあるからです。この騒動になっていく背景を、勝手に読み解いてみます。

写真展の内容に行政がケチをつけてきた

騒動は10月19日の東京新聞朝刊の報道からはじまります。
大田区「政治的」一部除外求める 原発事故 復興写真展
by 山田祐一郎 東京新聞2018年10月19日 朝刊
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201810/CK2018101902000128.html
(記事リンクは時間経過で削除されるので、以下、対象の掲載誌面をのせておきます)

(2018東京新聞)

フォトジャーナリスト豊田直巳さんが、福島原子力発電所事故の被災者を写真に収めた企画展を全国を巡って開催していて、今回は東京都大田区の施設を借りて展示をしようとしたそうですが、展示実施前の資料提出時に、主管と施設管理者から、写真の1枚が政治的だとの理由で展示しないよう求めてきた、というものです。

人の作品にケチをつける行政の行動は、過去にもたくさんおこっていますし、当然表現者である豊田さんは反発しました。その行動がプレスリリースでした。

脱原発の日のブログ
https://ameblo.jp/datsugenpatsu1208/entry-12413698355.html
*プレスリリースの原案は記事下部に掲載されています。

プレスリリースを読む限り、書式としては整っていないもので、自称広報の人たちが雑誌で診断する「プレスリリースの書き方講座」みたいなのでは、いろいろと言われてしまうかもしれないまとまりです(豊田さん、ごめんなさい)。しかし、このプレスリリースは功を奏し採用され、表現の自由について物議をかもすことになったのです。講座のセンセイたちもびっくり、なはず(笑)。しかし、前後関係を調べると、このリリースは絶妙のタイミングだったと、わたしは激賞します。

 

採用基準すべてがマッチした

プレスリリースの採用の基準となるものは、昔から3つです。

共益性
タイムリー
共感性

この1つか2つが記者の心にヒットすれば、記事化され、掲載される、とされています。どちらかというと、書式は「目立ち方」の部類に入るので、どうでもいいといえば、どうでもいいのです。なんたら講座にむらがる人たちは、この書式がどうたら、と言いますが。今回はタイムリーと共感性に大ヒットしたと、わたしは分析します(共益性はその後の効果として狙ったもの、と感じています)。

 

報道前後のキーワードは「ジャーナリスト」「地震」「原発事故」「復興」

東京新聞がとりあげた、関連トピック見出しを時系列に並べてみます。

10月15日
・原子力10施設解体180億円小規模でも国民負担巨額(1面)「原発事故」

10月16日
・原発優先のルールに問題、太陽光発電一時停止の愚「原発事故」「復興」
・東電元幹部3人公判津波危険性、どう認識「原発事故」「復興」

10月17日
・津波対策先送り否定(1面)「原発事故」「復興」
・免震制震装置986件不正KYB検査改ざん15年以上「地震」
・3.11後を生きる 東京湾の放射能汚染は今「原発事故」「地震」

10月18日
・KYB免震不正「地震」
・サウジ記者「ジャーナリスト」
・3.11後を生きる リポート福島再開望みつつ避難7年超「原発事故」「地震」「復興」
・閣僚に聞く 福島再生中長期で対応「原発事故」「地震」「復興」

10月19日
・記者殺害疑惑世界に波及サウジ投資ショック「ジャーナリスト」

世間のトピックスとして主要なテーマは、「原発事故」「地震」に加え、連日報道されているサウジ記者殺害事件です。記者の話は私たちにとっては対岸の火事ですが、「ジャーナリスト」たちにとっては言論の自由、表現の自由にかかわる重要な問題です。←これ、かなり重要です。

そこに、フォトジャーナリスト豊田さんの「地震」「原発事故」「復興」「ジャーナリスト」というすべてのキーワードを網羅するネタが投函されたのです。これは取材しないわけにはいきません。

 

1週間後の朝日新聞の調査報道

この報道から遅れることなんと1週間、新聞報道としては「昔話」に食いついたのが、朝日新聞でした。

原発事故のまち切り取った1枚の写真 展示巡り波紋
by 編集委員・豊秀一2018年10月26日09時13分
https://www.asahi.com/articles/ASLBT3HBNLBTUTIL00W.html?iref=comtop_8_01
(記事リンクは時間経過で削除されるので、以下、対象の掲載誌面をのせておきます)

(朝日新聞2018)

東京新聞が重視したと思われるキーワードを、改めて並べてみます。

「ジャーナリスト」
「地震」
「原発事故」
「復興」

朝日新聞が掲載した10月26日前の数日間、どんなニュースがメインとして扱われたのか。

10月24日
・原発賠償抜本改正見送り 1面「原発事故」「地震」
・安田さん1面「ジャーナリスト」
・サウジ記者1面「ジャーナリスト
・サウジ記者トルコ追求したたか  2面「ジャーナリスト」
・てんでんご 585 3面「原発事故」「地震」「復興」
・福島知事選「原発事故」「地震」「復興」

10月25日
・安田さん 1面「ジャーナリスト」
・トルコ「ジャーナリスト」
・てんでんご 586 3面「原発事故」「地震」「復興」
・安倍政権所信表明演説「原発事故」「地震」「復興」

10月26日
・女川原発運転35年「原発事故」「地震」「復興」
・モカ扱う7事業所膀胱ガン17人発症「原発事故」
・安田さん「ジャーナリスト」

サウジ記者殺害事件に加え、シリアで監禁されていたジャーナリスト安田さん解放のニュースが一大ニュースとして一斉に報じられ、報道のあり方や表現の自由などに注目が集まっている時期です。

さらに、福島県知事選、第3次阿部内閣の所信表明演説で、憲法改正と消費税10%が主に取り上げられましたが復興や原発事故についての言及もなされており、報道にもその内容が報じられています。

原発の再稼働問題がクローズアップされると、自然と福島原発事故のことが想起され、現状のこと・復興のことも並行して取り上げられます。その中で福島原発事故関連を扱ったジャーナリストの写真展での騒動。採用されるのは必然だったといえます。

 

複数の効果こそが報道効果

この2つの記事により、大田区は展示に対する注文を取り下げ、写真展はひとまずなんの障壁もなく開催の運びとなりました。しかし記者殺害事件や、安田さん生還後の救出賛否両論の激化予想から、表現の自由に対する不安は今後も継続されることが誰の目にも明らかです。これはリリース投函元の豊田さんも心配しているという発言があります。

しかし、この記事を読んだ第3者としての視点だと、

・写真展の存在を知った
・表現の自由について多角的にみていかなければいけない

というようなことが多いかもしれません。

また、プレスリリースを執筆する広報担当者の目線でいうと、この報道は典型的なタイムリーさにマッチしたトピックで、投函時に重要なことは何かを改めて考えさせられるテーマだった、と、ある種の衝撃を与えていることだと思います。

新聞報道は、多様な人たちが一斉に読むメディアであることから、ここにあげた以上の感想や見解がたくさん出ているかもしれません。

 

新聞報道には大きな潮流があり、これに目を凝らすこと

豊田さんのプレスリリースが採用された時期は、新聞報道が免震不正や原発再稼働に連想される福島原発事故のその後と、ジャーナリスト目線で特に重視する表現の自由が、大きな潮流として紙面作りを支配していたと思います。これにマッチした内容はホイホイと採用されているのです。

たとえば10月26日朝日新聞の「モカ扱う7事業所膀胱ガン17人発症」は放射性物質にかかわる記事でありながらも建築資材なので免震不正を連想できますし、放射性物質なら原発事故、という連想も働きます。

それぞれの記事にはなんとなく連想性があり、うっすらと隠れたテーマのもと編集されているのです。

そこには書式がどうのとか、ネタの書き方がどうのとかは見やすいにこしたことはないですが、あまり関係がありませんし、発信者のステータスや規模も関係ありません。

コミュニケーションの基礎とは、相手の目線に合わせて発信することだ、と別の記事で書きました。

これはジャーナリストたちがサウジでの記者殺害事件にいきりたっているのと、安田さん解放で「ジャーナリズムのあり方が激化するだろうとの危惧」という環境にこそ、投函者は目を付けることができたか、ではないかとも思いました。

ジャーナリストたちの危惧は、企業の担当者のほとんどにとってはどうでもいいことですが、コミュニケーションの基礎知識に照らし合わせると、絶対に見過ごしてはならないテーマなのです。

何が大事なのかを見定める訓練、パブリックリレーションズ担当者は必須です。

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