ストラテジックコミュニケーション(戦略PR)へ

Key Note

パブリックリレーションズを実行するにはどうしたらいいか。最新の定義に「戦略的な」という文言が含まれたように、コミュニケーションを計画的に構築したほうが効果があるよね、という結論であり、近年ではそれをストラテジックコミュニケーションというようになっています。

パブリックリレーションズの定義の詳細解説はこちら。

ただし、これはメソッド面での運用を論じたものであり、実施にはほかの要素、とくに経営者の資質が成功を左右すると、経験上強く感じています。

この「経営者の資質」を運用項目に含めるべきであり、利己的で残念な経営者のもとでパブリックリレーションズはどうあがいても花開くことはありません。その場合、プラクティショナーはその職を辞して別の職場に転じることを是としなければならない、とも思っています。

それらをふまえて、わたしはストラテジックコミュニケーションを以下のように定義します。

ストラテジックコミュニケーションとは、経営戦略に沿って短中長期すべての視点でコミュニケーション戦略を立案し、その運用をマネジメントするパブリックリレーションズの1ポーションのこと。この成否は経営者の資質により大きく左右される傾向があり、経営者はストラテジックコミュニケーション実行の基礎となるコミュニケーション戦略を経営戦略の中に組み込むことを承認し、実行責任を経営幹部にゆだねる、あるいは自ら実行する。

 

ストラテジックコミュニケーションは、パブリックリレーションズの中の新しい用語ですが、「広報」「PR」など、日本では誤用だらけな関連用語がゴマンとあります。別の用語はどのように使われているのか、乱立する用語の中に新しく加わるストラテジックコミュニケーションという用語の未来について、実際に調べてみた記事がこちらです。

では、以上の定義を満たすパブリックリレーションズの行動方針・ストラテジックコミュニケーション(戦略PR)の手段とはどういったものなのか。要素をまとめてみました。

戦略である以上待っていることはありえない

コミュニケーション戦略を作り、それを履行することを考えると、情報発信を誰かから指示されるのを待つ姿勢はありえません。自分たちで探し、考え、構成し、挑み、フィードバックをとり、改善していくことが求められます。

「戦略」ということばと関連するキーワードを改めて定義してみたのはこちらです。

 

「経営」「経営者」「定義」「戦略」「中立」

パブリックリレーションズを成功させるには、「経営」「経営者」「定義」「戦略」「中立」の5つがキーワードとなります。

「経営」については、企業理念の実現性を感じることができるか、ということと、実際にその達成のために企業はどんな活動をしているのか、そこに一貫性を感じるか、ということです。

「経営者」については、経営活動を私物化していないか、の一点です。どんなに経営で美辞麗句を並べても、それを伴うサービスを展開せず、従業員を酷使し、問題処理でも場当たり的なものであった場合、パブリックリレーションズは行き詰まります。これは、世の中が企業の存在価値を、社会に役立つ事業を行っているか、で選別する傾向が強くなっていることからきています。いわゆるCSRを満たす会社かどうか、が、「いい会社」の総合定義となってきており、この質問に答えられないと社会からは見向きもされなくなり、情報発信どころではなくなるからです。

いい会社はCSRの要求項目をピックアップすると体裁を整えられますよ、というような記事はこちら。

「定義」はパブリックリレーションズ担当者が主となりますが、情報発信の定義をしっかりと理解しているかで、経営に沿った発信を構築する方針を踏み外さないかが決まります。受け身、指示待ちの庶務広報では、社長の方針をくみ取って行動するなど夢の話で、自分たちの発信の可能性を追求するという意味においても怠慢です。定義についての記事はこちら。

ついでに、コミュニケーションそのものの構造解説も書いています。

「戦略」は、ストラテジックコミュニケーションをどう行うかを道筋だてるために必須の思考です。エグゼクティブから「これやっといて」という作業しか任されない情報庶務広報では到底至らない考えです。広報を任された以上、自らがプランし、発信をデザインする立場にならないと、組織としての活動は大きな機会損失を迎えます。

用語自体の定義はこちら。経営戦略と経営戦術の違いはしっかり押さえておくべきことです。

コミュニケーション戦略とその他戦略のリンケージの重要性について少しふれました。

コミュニケーションの定義の中で、ストラテジックコミュニケーションはどの分類に入るのかを解説しました。

「中立」は、情報発信においてたとえ経営者であろうともその介入を受けない、受けてはならない、ということをパブリックリレーションズ担当者が維持できるかということです。社会性を目指す企業なら自分たちのエゴを通すための発信はないはずですが、利己的な経営を志向している場合、公共性・公益性を主体に行うべき情報発信がいろいろな形で妨げられます。中立性についての記事はこちら。

以上の5つのどれか1つにでも不具合があると、情報発信はすぐに行き詰まります。発信の裏付け調査をされて齟齬が出ると、その指摘に対しての対応に追われるからです。顧客満足度一位を目指しているのに従業員のパワハラやサービス残業問題が出てしまった、とかは典型的ですね。

これらの5つのキーワードがパブリックリレーションズで確立して初めて、ほかのコミュニケーションポーション(マーケティング、IR、GR、ストラテジックコミュニケーション)の実行に移れます。

専守防衛ではなく、先攻防衛

とはいえ、5つのキーワードのどこかで問題があるのが企業というものです。課題が見えた段階でこれらをコミュニケーション面から改善していく手法を戦略的に実行し、解決を促しながら発信をいい方向にもっていく考え方もパブリックリレーションズです。

たとえば、ブラックバイト問題で従業員と経営者がもめたとして、その解決策を両者にとってWin-Winの内容におさめることができた場合、パブリックリレーションズとしてはその経緯も含めて発表し、社会の理解を得ながら解決モデルを世の中に提示する、ということを狙うことができます。

社内コミュニケーションで経営者に運用上の課題を指摘し、相談できるスレッドを構築する提案をし、経営改善につなげる環境づくりを後押しするのも、ひとつの仕事です。パブリックリレーションズからの課題指摘は、社会からの指摘である、という意味付けを社内で作れたら大きな進展がみられると思います。

最終結論が出ないトピックについて、あえて報道発表をし、記者からの質問を殺到させて経営者に決断を迫るブーメラン効果戦術を使って社内世論を固める、という荒療治もあります。

大量の情報収集で得た内容に課題が見つかったとき、「単なる指摘」「解決策を含めた改善提案」「課題着手・ディレクション」「行動を促すロビイイング」とさまざまなアクションを駆使して課題を早期発見、早期解決をはかるのも、パブリックリレーションズなのです。

組織構成は社長が従業員をどう見ているかにより変化する

パブリックリレーションズは社長の情報発信(経営戦略における情報発信)をほとんどの部分で肩代わりすることになるため、社長の信任をいかに得るかが重要になります。担当者と社長の相性が悪いとなかなかうまくまわらない難しい方式でもあるのです。

社長があらかじめ定められたコードに従って情報を発信するようになるのが理想ですが、経営はレールの上をただ走っていくだけということはほとんどないので、定まるまでに双方で相当量の打ち合わせと取り決めをくりかえすことは必須です。

また、社長の従業員に対する見解が性善説に基づくものか、性悪説に基づくものかによっても、組織作りの方針はかわってきます(西洋ではマクレガーのX理論・Y理論がこれにあたります)。これについてはいかに詳しく記事を書きました。

さらにパブリックリレーションズ担当者となった人は、社内において「出しゃばってる」「生意気な」というようなことが言われないよう細心の注意と配慮をもってこなさなければなりません(その意味で中立性の維持は担当者にとって強力な武器になるのです)。

表現の工夫をこころがける記事はこちら。

情報の受発信を担う人材は、年齢や性別でそれぞれに特性があるのも事実です。ジェンダー差別や年齢差別の上にコミュニケーションが成り立つ現実もふまえ、差別の根絶にはなぜそういった背景が作られたのかを考え、対策を施した改善策を提示していくか、慣例に従うかを決断しなければなりません。

情報発信は人々にエゴがある限りきれいごとだけでは成り立たない分野です。企業にもブラックボックスがあり、社長にはなるべくそのサイズを小さくしてもらう努力を求めなければなりません。発信をすればするほどブラックボックスは近くなるからです。

いいときは動き、そうでないときは発信を拒否し、誠実にパブリックと向き合うことができるか。

 

プロジェクトマネジメント技術の導入

ブランディングやプロモーションなど、情報発信は1つのミッションでも5,6件が常に稼働している状況になります。それぞれの進行を管理するには、プロジェクトマネジメント手法による進行管理が不可欠で、パブリックリレーションズの基本動作となります。個別の案件をディレクションする暇は、基本的にないはずです。

私は年間200件の発信プロジェクトをひとりで指揮あるいは管理しましたが、この手法を活用できたのでなんとかまわすことができましたが、それぞれでより深みのある内容にしたかったとも思っています。企業がある程度の大きさになると、情報発信は年間ベースで数百件になるのはあたりまえ、になります。膨大な数のプロジェクトをしっかりと見れるか、もパブリックリレーションズの課題です。

 

しかし、それでも直接ディレクションは必要

パブリックリレーションズでは、プロジェクト単位で情報発信をディレクションするのが主な仕事だ、と私は語っていますが、それでも直接ディレクションすべき発信はかなり多くあります。そのために必要とされるスキルはなんなのか、リストすると以下のようになります。

・対人コミュニケーション論
・ニュースライティング・引用技術論
・コピーライティング
・レイアウト学
・マーケティングリサーチ手法
・MBAにおける経営分析論
・投資家が活用する資産・株価分析論

さらに、より具体的なものとしては、

・マーケティングの手法の多くを理解し体験していること
・インターネットでのコミュニケーション手段を多く実体験していること
・ジャーナリズムを経験していること

というような日々の知見にかかわるもので実体験すべきものが数多くあります。これらの知識を、それぞれにより精通している専門家や企業と協働する場合の勘どころに役立てます。そうすることでプロジェクト運用がより具体的で成果を上げる可能性をアップできるのです。

 

まとめ

パブリックリレーションズを戦略的に運用するとなると、コミュニケーションをひとつの方向性のもと、多数展開するストラテジックコミュニケーションの発想が必要となります。しかし、それを成功させるためには経営者の資質が重要で、この調査をパスしないと動けないジレンマがあります。パブリックリレーションズは、高度になればなるほどひとりで動くことはできません。組織の理解、数々の専門家の協力がなければなしえなくなるのです。しかし、これは知識が高度になればなるほど生じる普遍的なテーマでもあるので、悩むことではありません。人から指示されて実効性のわからないリリースを書いておしまい、という情報庶務よりも数段高度のコミュニケーションづくりに挑むのです。