過去の定義には、パブリックリレーションズは「双方向コミュニケーションである」ことが明記されていた時期がありました。コミュニケーションが戦略的に整備されるようになってくると、その文言は消えています。後退したのか、周知されたので削除されたのか。
わたしは後退した、と思っています。
双方向にツッコミを入れるのはタブー?
相手の話を一切聞き取る気がないけども、求められている以上はその窓口としてメールアドレスや電話番号を設定しているケース、実はたくさんあります。返事の来ないIR窓口、意見を聞く気のないパブリックコメント受付など、パブリックリレーションズ担当者なら、思い当たるフシは1つや2つではないかもしれません。
これは、コミュニケーション担当者にとっての公然のタブーです。
きれいごとを並べ、自社の商品とサービスをお客様の声を聴いて改善した風に情報をアレンジすることすらあるはずです。
こういったコミュニケーションしかできない商品・サービスは、ただただ残念でなりません。しかし、こちら側の都合を考えれば、自分たちに都合のいい「対話姿勢」は必要であり、その結果として「回答する気のない窓口」を設置したりすることが起こるのです。「対話姿勢」だけにフォーカスすれば、「相手に配慮したチャンネルを作っている立派なもの」です。これもまた双方向を賛辞する要因になっています。しかし、本来の双方向とは、そういうものではなかったはずです。
双方向という言葉が定義から消えたのは、こういった建前の設定が横行しているからかもしれません。しかし、現場レベルでは、できるだけこういった姿勢を減らし、真の双方向を作るべきであることは確かです。結局、情報発信をすればするほど、有名になればなるほど、こういった姿勢は足かせになっていきます。
どうすればいいのでしょう?
受け入れる意見とそうでない意見について明確なルールを作り、低レベルなコミュニケーションを防ぐふだんからの努力の積み重ねこそが重要となるはずです。
受け入れる意見と、そうでない意見
1対1のコミュニケーションで、うまくいく相談の方法とは、どんなものだったでしょうか。それは相談者が経緯をまとめ全体像を示し、自分はこうしたいんだけどどうおもうか、と投げかけるアプローチではないか、と。
集団と集団のコミュニケーションでも、このプロセスが行われていれば、相談をもちかけられる私たちも考えようがある、対処のしようがある、と言えます。
相手のパブリックのエゴを丸出しにした提案は、基本的に受け入れることはありません。相手(=わたしたち)の取り組みの経緯やそこに至るまでの努力に対して敬意をもって接し、そのうえで自分たちが思う改善や指摘を行い、それがどのくらいほかの人たちに有益であるかを説くものであれば、受け取る側としても真剣に耳を傾け、検討し、改善に役立てていいと思います。
指摘や批判が具体的な改善策を伴ったものであれば、聞くべきである、というシンプルなルール設定をすると、双方向コミュニケーションの方向性がはっきりとするはずです。
たとえば、飲食店のランチメニューで、「ボリュームが足らなかった」という指摘は無視しますが、「外で作業する体力仕事の人たちが多く利用したいと思うランチなので、ボリューム感をもったメニューをぜひとも作ってほしい」という指摘なら真剣に考える、ということです。
双方向には、相手の立場を理解したうえで、自分たちの提案が最終的には多くの人たちに良い結果をもたらす、ということを理論的に伝えること。つまりはコミュニケーションの基本モデルを応用したものであればいい、ということではないでしょうか。
「Why」を排除するふだんからの準備
やり取りの中で非生産的なものに終始するのが、「なぜ●●なのですか」という問答です。詰問しているようにとられかねず、基本的に答えはいいわけ調になります。「なぜ」ということばはとっても使いやすい。直感的な感情表現でもあり、思ったことをすぐにことばにするものとしては典型的なものです。しかし、受け手にとってこのことばは厄介です。感情に対する答えは感情であり、それを回答とした場合、何をいってるのかわからない答えが圧倒的に多い。理論的なものに転じたとしても、要領を得ないことのほうが多いのです。これではいいコミュニケーションは生まれにくいです。
「なぜ」を「どういう経緯でこうなったのか?」というHowに変える問答にすると、具体的な回答や議論を引き出しやすくなります。
「なぜ決算が悪いのか」よりも、
「どういう経緯で決算成績が悪くなったのか」
「なぜこのようなパッケージに一新したのか」よりも
「どういう経緯でパッケージの一心に至ったのか」
「なぜこのような新商品開発ができたのか」よりも
「どういう経緯で新商品開発ができたのか」
「どういう経緯で~」にすると、こたえようとするイメージが具体的に沸いてきます。
これは問答だけではなく、発表内容、執筆内容すべてでHowを心がけて構成する癖をつけることが重要です。ひとつひとつの説明が丁寧で理論的になります。
理論的な説明をするためには、社内でコンセンサスを取らなければいけなくなります。
説明をしっかりさせようとすればするほど、その商品やサービスのバックラウンドが、しっかりと担保されていなければ成り立たないことに気づきます。いい説明文ができなければ、商品は発表できない。なんのためのものなのか胸を張って説明できなければ、商品足り得ない、という空気を組織の中で作れば、外部の声を前向きに聞く姿勢づくりや、丁寧な説明を果たすためのバックグラウンド作りにつながります。
まとめ
双方向が前提のパブリックリレーションズは、ときに対話をする気がないのにチャンネルを設け、あたかも双方向コミュニケーションをしているかのような体裁を整える建前が横行することがあります。この偽善はなんらかの欠陥を生み出す危険があり、相手のパブリックに対しても不遜で避けるべき手段です。
この対策は、コミュニケーションにおけるルールを定める、コミュニケーションの仕方を工夫するなどの積み重ねによって取ることができます。偽善の関係はストレスでしかありません。双方向を足かせにしないために、普段からのコミュニケーションを改善していくことで、これを防ぐようにできれば、と願います。上記にあげた改善策以外にもたくさんの改善方法があります。