従業員のあり方をどう捉えるかにより、情報発信のスタンスは大きく変化します。その大いなる参考となる理論がアメリカの心理学者マクレガーが提唱したX理論Y理論です。
マクレガーのX理論Y理論
1950年代後半にアメリカの心理・経営学者ダグラス・マクレガーが提唱した理論。性善説・性悪説、ともいわれている人間観・動機づけにかかわる対立的要素で理論のこと。マズローの欲求段階説をもとにしながら、「人間は生来怠け者で、強制されたり命令されなければ仕事をしない」とするX理論と、「人は生まれながらに仕事が嫌いということはなく、条件次第で責任を受け入れ、自ら進んで責任を取ろうとする」Y理論とがあるというもの。経営者目線でこれをみると、X理論は従業員を給与ドロボーとみなし、信用ならない監督指導の対象、とし、Y理論は従業員を尊い存在とみなし、その責任と義務を自発的に活かすというまったく逆の視点。
PR概論の練習問題で感じた違和感
PR概論で非常に気になる演習問題がありました。リリース発信のタイミングについての問題で、発信の混乱を防ぐため、社内への公表は、一般へのリリースのあとが正しい、としているもの。わたしは組織内の結束度合いによりどちらもYESとなりうる、と思っていて、実際に同じ組織内で発信前公表と発信後公表を行い、問題化はしていません。
事後報告は情報漏洩をきらってのことですが、見方によっては社員を一切信用していないことをさし、実際にこういう発表が繰り返されると、社員は疎外感を持ち、士気に影響していくことを現場のパブリックリレーションズはまず考えることです。PR概論が現場の細やかな心理に一切触れず、一方的に答えを定めている時点でテキストとしての考察に欠けたものである、と残念な気がしてしまうのは私だけでしょうか。
X理論型組織が圧倒的多数という現実
ティール組織という本には、このX理論、Y理論の展開では、X理論型の考え方を組織づくりに導入しているところが圧倒的多数だ、としています。調べ方はカンタンで、それぞれの動作規定で「こうしなさい」ばかり明記されているところは100%X理論が前提だ、というのです。まさか、と思ってルールを考察すると、ほとんどが社員とはダメな存在とみなさなければこういうルール設定にはならないよなあ、というようなものばかりであることに気づきます。
X理論は、マズローの欲求段階説における低次欲求(生理的欲求や安全の欲求)を比較的多く持つ人間の行動モデルで、命令、強制で管理し、目標が達成出来なければ罰を与える「アメとムチ」によるマネジメント手法になります。
日本の組織は戦後復興期の食うや食わざるやの状況からスタートしているので、組織づくりでX理論を導入するのは自然なことであるのも確かです。しかし物質的に満たされた現代において、低次欲求はとっくの昔に卒業しているはずなのに、組織づくりの設計思想に変化や進化が見られていない、という現状があると言わざるを得ないのです。
注)ただし災害救助など生命の危機を扱う状況ではX理論は効果を発揮します。
ところが理想はY理論
Y理論においては、マズローの欲求段階説における高次欲求(社会的欲求や自我・自己実現欲求)を比較的多く持つ人間の行動モデルで、魅力ある目標と責任を与え続けることによって、人を自発的にを動かしていく、「機会を与える」マネジメント手法となります。
企業目標と従業員個々人の欲求や目標とがはっきりとした方法で調整出来れば、企業はもっと能率的に目標を達成することが出来るとマクレガーは言います。企業目標と個人の欲求が統合されると、従業員は絶えず自発的に自分の能力・知識・技術・手段を高め、かつ実地に活かして組織の繁栄に尽くそうとするようになると、マクレガーは指摘しているのです。
社会の生活水準が向上し、生理的欲求や安全欲求などの低次欲求が満たされている時には、X理論のマネジメントはチベーションの効果は期待できない傾向があります。低次欲求が充分満たされているような現代においては、Y理論に基づいた管理方法の必要性が高い、とマクレガーは主張しているのは、働き方改革やブラック企業問題を見ていると、納得できることが多いです。
X理論Y理論とパブリックリレーションズ
従業員をドロボー扱いするX理論に依るコミュニケーションマネジメントは非現実的になりつつあるものの、組織の成り立ちがX理論の土台で構成されている矛盾が存在する、ということです。PR概論の考察なき回答の示唆もその典型で、現場に立って現実目線で人々のやりとりを司るパブリックリレーションズは、X理論で人を見るという前提に偏っていいのか、という疑問を常に保ちつつ、臨機応変にルールを変える力が求められている、ということです。
コミュニケーションマネジメントにおける低次元欲求、高次元欲求とはなにか、を考え、それにフィットしたコミュニケーションをその都度選択していくのが現実的選択肢でしょう。
X理論をベースに強いリーダーシップでコミュニケーションを主導するケース
・クライシスコミュニケーション
・予算執行の権限発動時
・導入期のマーケティング企画立案、実行のワークフロー
Y理論による自発的コミュニケーション
・発展期のマーケティングの企画立案・実行のワークフロー
・人材採用のコミュニケーション活動の全体方針づくりとその実行
(ただし、この前提づくりは会社の人材採用戦略がX理論でないことを詳細に渡り確認する必要がある)
特徴を知り、活用する(まとめ)
X理論Y理論は偏りがキツイため、その後の研究で「完全には使えない」という結論が出ています。が、組織作りの本質論を突いている点では突出した理論であるため、現代においても企業研究・組織研究では必ず検討される理論であることは確かです。組織運営では実際にはX理論Y理論を織り交ぜた展開が求められるケースが多いかもしれません(いや、本質的にX理論ベースの組織に染まってしまっている私たちは、純粋Y理論で出発している組織を知らないからこういう論調になっている;ティール組織を除いて)。
パブリックリレーションズ担当者は情報発信の方向性を決めかねない考え方があることを知り、発信時の「その判断」が、PR概論にあるような安易な結論で行うことがないよう気を付ける必要があります。
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